夢現奇譚 本編シリーズ長編

天昇

                                                                                              TopIndexBackNext

<幕間1>

 薄くたなびく雲は、西の陽に染められて、見事な色彩を放っていた。
 明るい夕空の紺青を仰げば、寝床へと急ぐ鳥の姿がある。
 青年はそれを高い木の上で、楽しそうに眺めていた。
 西へ視線をやれば、黄金に輝く陽の光に、目を細める。
 やがてそれは、山稜へと隠れると、紺青の空は徐々に漆黒へと染まっていった。
 いつの間にか青年の側には、もうひとつの気配がある。
「……首尾は上々か」  
 青年の言葉に、短く是と答える声があった。
「仰せの通り、愚者の森へ放ちました」
「相分かった。引き続き監視に当たれ」
 再び短い応答と共に、その気配は遠ざかる。
 変わりに現れたのは、二か所からこちらを伺う『目』だ。
 青年は腕を組み、まるで牽制するかのように睨み付ける。
 やがてひとつはその気配を消したが、もうひとつは消したように見せかけて、弱くこちらを見ていた。
(……あちらは静観。問題は『(ひいらぎ)』か)
 向こうはまさかこちらが気付いているとは思っていないだろう。
 好都合だと、青年は喉の奥で笑う。
 どちらかと言えば『柊』の方が、その動きが予測しにくいこともあり、その『目』の気配は青年にとってありがたかった。
 青年は何かを探るかのように目を閉じる。
 とても強い光の気配が育ちつつあった。気配を辿るだけで身体を灼かれそうな、光の力。あれだけの力があれば、周りの魔妖は触発されて、我が身に取り込もうと躍起になるだろう。
 『柊』もまたその気配に気付いたのか、『目』をそちらへと向ける。
(……さあ、呼ぶがいい)
 呼んで、呼び寄せるがいい。



 遊戯はまだ始まったばかりなのだから。

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