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「太刀、銘八条――――名物、《紅椿》」


 その名を聞いた刹那。
 自身の存在が、雁字搦めに捕らわれたような気がした。
 結希は無意識の内に、数歩、後退りをして、何かを堪えるように俯く。
 『何か』が。
 ざわりとした感触の『何か』が。


 ――――いる。


「同じく千年前、八条国成が鬼と共に打ったとされる、妖刀ですね」
「肯定です。彼の刀剣は、そのほとんどが妖刀だという認識で結構です」


 ふたりの声が遠い。
 こんなに近くにいるのに。

 結希が息を詰める。
 にぃ、と『何か』が嗤ったような気配がした。
 気付けばそれは、結希の身体を、胸を突き破り、どくどくと脈打つ心臓を鷲掴みにしていた。
(――――……っ!)
 確かめるようにやんわりと、そして。
 じわりと溢れ出すそれを楽しむかのように、いとも容易く握り締める。
 鮮血が辺りに飛び散った。
 その様を、『何か』が狂気と歓喜に満ちた声を上げて見ていた。
 全身にその血を浴びて、それは甲高く、嗤う。
 けたけた、けたけた、と。  

 
   ――――呪われている。


 これを呪いと呼ばずして何と呼ぼう。
 千年だ。  
 未だに向けられる怨嗟に、結希は間宮の家が犯したものを思う。
 千年前に一体何をしたのか。
 裏切り者と呼ばれ迫害されるだけでは、この怨嗟は治まることを知らないとでも言うのだろうか。


 ごめん、と。
 誰かに赦しを乞えたらどんなに楽だろう。

 
 結希は、自分の意思とは関係なく、とめどなく溢れてくる涙を止めることが出来なかった。
 この悲しさを。
 寂しさを。
 そして自分とは違う心の中に喚起する、強い愛惜の念を思いながら、赤黒い涙のように、その血を流す。



 謝るべき相手は、もう――――。

                                  

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