夢現奇譚シリーズ掌編

 愛憎
                                                                                     pege top     index


 操られるなと、男の切羽詰まった声が聞こえた。
 必死に訴えかけるその声は 少年に届くことはない。
 何故なら少年は操られてるなど、全く思っていないからだ。
 少年にとって今のこの状況は救いでしかなかった。
 深層心理の遥か奥で、この絶望を、心の渇きを、悲しさを共有し、理解し合えた者を、少年はどうしても敵だと思うことが出来なかったのだ。


 生温かい何かが、少年の顔に降りかかる。
 苦悶する男の声が、どうも心地良い。
 くすくすと少年は笑った。



 ああ本当に。
 心地良い。
 生温かいものが降る様も、その苦痛に満ちた声も、それでもなお、名前を呼ぶその、刹那の声も。






 紅に染まった少年の顔は、壮絶に笑んでいた。
 白衣だった縛魔服は、侵食されるかのように赤黒く染まっていく。
 少年は男に容赦がなかった。
 力のありったけをぶつけても、ぶつけても、何かが足りない。
 かつて自分を殺した男に対する復讐か、あるいは飢えた心を潤すためなのか、少年は甲高く笑い、執拗に攻撃を重ねる。


 だか、何故だろう。
 攻撃をすればするほど。 少年のもうひとつの心は。
 今にも引き裂かれそうな、悲鳴を上げ続けていた。                 
                                    <終>
pege topIndex
Copyright(C)2017 hotono yuuki  All rights reserved. a template by flower&clover
inserted by FC2 system