操られるなと、男の切羽詰まった声が聞こえた。
必死に訴えかけるその声は 少年に届くことはない。
何故なら少年は操られてるなど、全く思っていないからだ。
少年にとって今のこの状況は救いでしかなかった。
深層心理の遥か奥で、この絶望を、心の渇きを、悲しさを共有し、理解し合えた者を、少年はどうしても敵だと思うことが出来なかったのだ。
生温かい何かが、少年の顔に降りかかる。
苦悶する男の声が、どうも心地良い。
くすくすと少年は笑った。
ああ本当に。
心地良い。
生温かいものが降る様も、その苦痛に満ちた声も、それでもなお、名前を呼ぶその、刹那の声も。
紅に染まった少年の顔は、壮絶に笑んでいた。
白衣だった縛魔服は、侵食されるかのように赤黒く染まっていく。
少年は男に容赦がなかった。
力のありったけをぶつけても、ぶつけても、何かが足りない。
かつて自分を殺した男に対する復讐か、あるいは飢えた心を潤すためなのか、少年は甲高く笑い、執拗に攻撃を重ねる。
だか、何故だろう。
攻撃をすればするほど。 少年のもうひとつの心は。
今にも引き裂かれそうな、悲鳴を上げ続けていた。
<終>